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シリーズ 豊田恭子氏が紹介するアメリカの図書館事情

第三回 無限図書館(ナッシュビル)

図書館リレートーク ライン本

公共図書館と公立学校の戦略的・包括的なパートナーシップ

図書館リレートーク ナッシュビル図書館
3回目となる今回は、テネシー州ナッシュビルで行なわれてきた、公共図書館と学校図書館の連携プロジェクトについて紹介したい。2017年のライブラリー・オブ・ザ・イヤーを獲得した有名な事例で、その戦略的で包括的なパートナーシップが、全米の多くの公共-学校連携の手本にされたとされる。

学校図書館が、常に資金と人材の不足に悩んできたのは、アメリカも同じだ。人口65万人の中堅都市・ナッシュビルでも、以前の学校図書館はひどい状態だったという。
図書館リレートーク ナッシュビル図書館

© Nashville Public Library

この状況をなんとか打開しなければと訴えたのが、2007年に市長選に立候補したカール・ディーンだ。彼は「街の経済発展と、安全と、教育はすべて繋がっている」と主張し、公共図書館と学校図書館の垣根を取り払う「無限図書館(リミットレス・ライブラリ)」構想を打ち立てる。

当選して翌年の2009年には、早速、実証実験が開始された。市内の4つの公立高校がまずは選ばれ、市長、ナッシュビル公共図書館(NPL)、メトロ・ナッシュビル公立学校 (MNPS) 管理局の3者で、以下の取り決めが交わされた。
  1. 学生証をそのまま図書館カードとして使えるようにする
  2. 学校に図書館システムを導入し、学生が学校から、公共図書館の蔵書を自由にリクエストできるようにする。
  3. リクエストされた本は、学校の配送システムを使って2日以内に学校に届ける
また同時に、
  1. 公共図書館の司書が、学校図書館の蔵書構築をサポートする
ことが決められた。
これにより、公共図書館から学校に派遣された司書は、古い本を捨て、必要な新刊を揃え、学校図書館として館内に揃えておかなければならない蔵書だけに特化した施設づくりに協力した。学校図書館が、使いやすく美しい空間に生まれ変わっただけでなく、その後、公立図書館の利用件数も大幅に増加したという。

翌2010年、対象を地域のすべての高校(16校)に広げ、その翌年には、すべての中学校(35校)がここに加わった。

公共図書館司書が、学校図書館の蔵書刷新に協力していくなかで、本の発注も、徐々に公共図書館側が行なうようになったという。公共図書館のほうが、学校よりも高い割引率で本を仕入られるということもある。しかしそれ以上に、煩雑な発注手続きを公共図書館側が担うことで、人数の少ない学校司書たちの負担を軽減し、彼らが学生の読書サービスなどに、より時間を割けるようにするためだという。
2013年には、地元の実業家ジョン・イングラムから、100万ドル(約1.1億円)が寄付された。無限図書館プロジェクトをさらに前へ進めるために、学校図書館をより現代的な、最新の電子機器なども揃えた施設とするための基金である。これには市内の2校が選ばれ、そこでは、3Dプリンターなどを備えた最新のメイカーズスペースが誕生した。その後、市は、毎年必ず100万ドルの予算を学校図書館のリニューアルにあてることに決め、2校を選んで、順次、リノベーションにあてている。
ハリス・ヒルマン校も、その恩恵を受けた1つだ。ここには、3歳から21歳までの、何らかの障碍をもつ生徒たちが通っている。生徒はそれぞれ、年齢も、興味も、コミュニケーション能力も、かなりの隔たりを持つにもかかわらず、カフェテリアの奥に押し込まれた小さなコーナーにあるのは、わずかな絵本と、低学年用の読み物だけだったという。2015年、同校は無限図書館プロジェクトにおける5番目のリノベーション対象に選ばれた。

まず約6500万円が、建築費用にあてられた。それまでのプロジェクトでは、既存施設の内装リニューアルにとどまっていたが、今回は、地元の建築会社によって新しく独立した図書館が建設された。コンピュータやラップトップを揃えた学習施設や、各種イベントのためのスペース、そして科学技術教育のためのメイカーズスペースも設置された。そして約250万円が資料費に向けられた。300平方メートルのスペースには、生徒たちの多様なニーズに応えるための、多彩なコレクションが並ぶ。授業との連携もしやすくなったという。

ハリス・ヒルマン校
© Harris-Hillman School in Nashville

ハリス・ヒルマン校
© Harris-Hillman School in Nashville

現在、ナッシュビルでは、市内の小中高あわせて128の公立学校に通う、3年生以上のすべての生徒約8万3000人が、無限図書館の利用者となっている。学校の生徒と教師はみな、市内にある21の公共図書館分館と、いくつかの大学図書館の蔵書に自由にアクセスできる。そこには、合わせて200万冊の蔵書、電子ブック、数多くのデータベース、音楽CDや映画DVDも含まれる。

2014年に実施された全米学力テストでは、無限図書館につながっていない学校より、つながっている学校のほうが上位の成績をおさめ、このプロジェクトの有効性が証明されたという。また2017年にはナッシュビルは経済成長率の高さで全米3位の都市となり、人口もメンフィスを抜いて、テネシー州のトップとなった。
「学校連携で重要なのは、互いをより理解し、深く信頼すること」とNPLのアリソン・バーニーは述べている。「連携をやり始めた当初、公共図書館が学校図書館にとって代わろうとするのか、と恐れる人がいた。公共図書館は、学校図書館の補完で、代替ではない。プロジェクトの目的は、学校図書館の重要性を高めることであり、学校図書館には学校司書が必要であるとの認識を広めることにある。」

そして公共図書館機能が学校のなかに埋め込まれることによって、公共図書館もまた、真に地域の学習機関としての業務をまっとうできることになるという。公共と学校は、それぞれ、自分たちの目標を達成するためのパートナーなのだ。ナッシュビルの無限図書館は、現在、放課後のプロジェクトや、市内の私立学校にも拡大され、更なる発展を続けている。





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