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シリーズ 豊田恭子氏が紹介するアメリカの図書館事情

第二回 ヒュ-ストン公共図書館

図書館リレートーク ライン本

図書館とものづくりスペースを配置したまちづくり政策のもと、新しい施設がオープン

公共図書館を街づくりの核にしようという動きが、いま、全米で広がっている。

今回はそのひとつ、ヒューストン公共図書館を紹介したい。

図書館リレートーク ヒューストン公共図書館

図書館リレートーク ヒューストン公共図書館
ヒューストンは人口230万人、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴに次ぐ全米第4の都市だ。エネルギー、石油化学産業にとどまらず、宇宙産業や製造業、医薬産業も盛んで、フォーチュン500のうち25社がここに本社を構える。豊富な労働力、物価の安さ、市内にある2つの空港からすべての大都市に直行できるアクセスのよさなどを背景に、日本からも100社以上が進出しているという。

潤沢な税収をベースに、所得税はなし。高速道路やインフラ、街並みも整備され、暑い夏を快適にすごすための冷房も完備されているため、「US News& World Report」誌の2018年調査では、全米で住みやすい街の26位にランクイン。また人口が増えている都市ランキングでは15位に入った。

国外からの人口流入も多い。いまや市民の4人に1人は米国外で生まれ、ヒスパニック(中南米出身者)人口は白人をしのぐ。ベトナム系、インド系、中国系などアジア系も多く、家で英語以外で会話する人は、住民の半分近くにのぼる。市内の学校では、100近い言語で授業が行われ、米国でも最も多様性に富んだ地域とされる。

多様性の拡大は、街としてのアイデンティティの確立を難しくする。2015年に市長となったシルベスタ・ターナー氏は、就任するとすぐに、未来の街づくりについての議論を加速させた。

「南のハーバード」とも呼ばれる地元の名門私立ライス大学、そして地域政策に実績をもつアスペン研究所の協力のもとに、市は2017年、街づくりの10か年計画を策定。ヒューストンを、持つ者と持たざる者に二分することなく、誰もが安心して住み、希望をもって働き、成長できる街にするためのマスタープランを発表した。そこで中核的な役割を担うのが、ヒューストン全域にわたる公共図書館ネットワーク構想「One Houston One Library」だ。

1500平方キロのヒューストン市を7つのエリアに区分。そして住民すべてが、どこにいても平等に図書館サービスを受けられるよう、以下の施設を配置する。

  1. 総合図書館:図書館のすべてのサービスとプログラムを提供。各エリアに必ず1館あるようにするため、既存6館に加え、1館を新設する。
  2. 近隣図書館:図書館の基本的サービスを提供。2館を新築し、合計23館に。
  3. テクリンク(TECKLink):ハイテク工作機器をそろえたメイカースペース。市内17か所に新築する。うち7館は、総合図書館に併設される。
  4. エクスプレス図書館:インターネットにつながったPCと貸出し用一般図書を揃える。市に2つある国際空港にそれぞれ新設し、合計7か所に設置される。
  5. 専門図書館:地域資料、黒人資料などを揃えた既存3館に加え、新たにヒスパニック資料を集めた1館を新設する。

上記を実現するために、1億2300万ドル(約140億円)が必要と推定。市長はこれを、学校、病院、消防、公園などを含めた市の総合プランに組み込み、合計5億ドル(約560億円)の債券発行を住民投票にかけた。おりしもハリケーン・ハービーの大災害に見舞われ、安心して暮らせる街づくりを誰もが願った直後とあって、2017年11月、提案は圧倒的支持を集めて可決された。

図書館サービス網の拡充は、リテラシーの向上、就職率の改善、経済発展といった目に見える効果だけでなく、目には見えづらいが、街づくりに重要な2つの支柱をもたらすと期待されている。

ひとつは、レジリエンスという言葉で語られる。貧困や差別、災害や喪失などの苦難に出会ったときに、それを乗り越える力、復元力を意味する。

ハリケーンに襲われた時、図書館は無料のWiFiとPCを提供し、街の人たちの情報収集や、災害申請を手伝う。避難所で不安におびえる子供たちには、物語を読み聞かせ、魔法の時間を出現させる。職を探す人には、求人情報を提供し、履歴書の書き方を指南する。こうして図書館は人に、たとえ苦難にあっても、それを克服し、前に進む力を与えてくれる。

もうひとつが、街への帰属意識、街としての一体感だ。図書館利用を通じて、住民一人一人が街に愛着をもち、ヒューストン市民(ヒューストニアン)としての誇りを持つようになる。住民の間にある民族的宗教的経済的「違い」を超えて、皆が同じ土地で生きていることを認識する。

つまり図書館は、街を強くし、街をひとつにするのだ、とヒューストン公共図書館のレア・ブラウン・ローソン館長は言う。それが、街の変革を可能にする。

今年6月に、シーニック・ウッズに登場した、出来たばかりのテクリンク第1号を訪問した。そこでは子供たちが電子ゲームで夢中になって遊んでいた。夏には、STREAM(科学、技術、読書、工学、芸術、数学の頭文字をとったもの)プログラムが1か月にわたって提供され、子供から大人までが参加し、一緒になって学び合うという。散髪をしながらの読書、食事をしながらのイベント、ビジネスプランのコンペ、アート・クラブ、ファミリー・ヒストリーなどなど、提供されるサービスはまさに多彩だ。

ローソン館長は、「街を変えたいのなら、図書館に投資を」と、長年にわたって訴え続けてきた。今、ターナー市長のもとで、その主張が具現化している。58施設をつなぐ図書館ネットワークは、ヒューストニアン230万人をひとつにし、街づくり10年計画の中核組織としての機能を発揮し始めている。

図書館リレートーク ヒューストン公共図書館 イメージ写真
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