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シリーズ 豊田恭子氏が紹介するアメリカの図書館事情

第一回 ローザ F. ケラー図書館&コミュニティセンター

図書館リレートーク 豊田恭子氏豊田 恭子 氏(とよだ きょうこ)

シモンズ・カレッジ(米国ボストン)で図書館情報学修士号(MS)取得。
2001年、グローバル金融機関JPモルガンの東京オフィスでビジネスリサーチセンターを立ち上げる。
情報科学技術協会、専門図書館協議会、米専門図書館協会の委員などを歴任。2000年よりビジネス支援図書館協議会理事、2018年6月から同副理事長。ゲッティイメージズ、NTTデータなどで、データベース構築に携わったのち、2009年より、PRエージェントであるバーソン・マーステラで、現職となるリサーチを担当。現在は札幌に移住し、在宅で勤務を続けている。

<主な著作>
・「企業における情報専門職のこれまでとこれから:エンベディットライブラリアンの台頭と今後の課題」『情報の科学と技術』2015.2月号
・「事例報告:全米の図書館に広がるメイカースペースの威力」『情報の科学と技術』2017.10月号
・「ALAが展開する『地域を変革する図書館』プロジェクトー地域とともに歩む図書館の新たな役割―」『図書館雑誌』2018年2月号
・「ごぞんじですか?:組織のトップが求めるインフォプロの役割=米SLA調査から」『専門図書館』2018年7月号

図書館リレートーク ライン本

災害からの復興を通して、地域のハブとしての機能を強化

図書館リレートーク ローザ F.ケラー図書館
今年6月、アメリカ図書館協会(ALA)の年次大会の開催地となったニューオリンズの街を訪れた。ニューオリンズといえば、2005年8月のハリケーン・カトリーナを覚えている人も多いことだろう。そもそも市全体が海抜6メートル以下。市を取り囲むように築かれていた堤防も、カテゴリー4の巨大ハリケーンにはひとたまりもなく決壊。街の8割が水没した。

今回、紹介するのは、その時に甚大な被害を受けた図書館の、復興と発展の物語だ。
図書館リレートーク ローザ F.ケラー図書館全景

@Rosa F. Keller Library & Community Center

ローザ F. ケラー図書館は、町の中心部から4キロほど離れたブロードモアと呼ばれる地区にある。裕福な白人でありながら黒人公民権運動に共鳴したローザ F. ケラーは、その死後、自身の邸宅を市に寄託。図書館は1993年、その庭に建てられた。

ブロードモアは、ニューオリンズ市の中でもひときわ海抜が低い地帯とあって、ハリケーンが襲った時には3メートル近くの水に浸り、その後も1か月近く立入禁止区域とされた。2006年1月、市は復興計画を発表。1.5キロ四方のブロ-ドモア全域を排水システムを兼ねた「公園地区」に指定。今後ここに住宅を建てないとした。

これには、半壊した家の2階に住みながら復興を望んでいた住民も、市外に避難していた元住民も、激しく反発。その時のリーダーがラトヤ・カントレルだ。彼女は7000人いた住民と、図書館と、学校を、ブロードモアに取り戻すと宣言。「ブロードモアは生きている!(Broadmoor Lives!)」の運動を開始した。

ハーバード大ケネディ・スクール(公共政策大学院)のドウ・アーレルズ教授がこれに賛同。大学の春休みに学生を伴ってブロードモアを訪れ、300頁にわたる復興の青写真作成を支援した。それは単に街を再建するだけにとどまらない、住民参加によって、もっといい街を建設するための計画だった。

そこからは、次々とネットワークが広がっていく。アスペン研究所、クリントン財団、そして不動産のシュレンスタイン、エンジニアリングのCH2Mヒル、シェルといった企業からも支援の手が伸べられた。ブロードモアをどうすべきかは、ニューオリンズ市全体の再建を象徴する問題となった。

2006年6月、ラトヤは不動産王シュレンスタインの創業者ウォルター・シュレンスタインと、ニューヨーク・カーネギー財団のバルタン・グレゴリアン会長をブロードモアに招く。そして洪水に破壊され、暑さで腐りかけているローザ F. ケラー図書館を案内する。

ここでは様々な教育プログラムを提供する、隣接した古い邸宅はコミュニティセンターとする、そして学校と連動する――、その時点ではまだ「夢」だった構想に、二人の老紳士は注意深く耳を傾けたという。

図書館を出たときに、彼らが言った。「この前の土地も計画に含めたほうがいい。街が発展すれば、今の図書館では手狭になる。たくさんの教室やプログラムやサービスを提供するのに十分なスペースを確保しておくんだ。」この荒廃した景色と重苦しい空気の向こうに、彼らはすでにブロードモアの未来を見ていたのだ――と、後にラトヤは書いている。

こうして「夢」は現実の計画に成り代わった。図書館はカーネギー財団から約2億円の援助を獲得。米国政府の災害援助金3.7億円と合わせ、2012年3月、新しいローザ F. ケラー図書館&コミュニティセンターがオープンした。

600平米に拡張された新図書館は、2万冊の蔵書と、豊富なCDコレクション、28台のコンピュータを揃え、子どもの読み聞かせから、学校の放課後プログラム、大人向けセミナー、アート・ワークショップ、起業支援まで、多彩なサービスを提供する。再建された旧家では大小7つの部屋が開放され、仕事や会議、集会などに使われている。2つの建物をつなげる通路にはカフェがあり、中庭にはテーブルがある。ニューオリンズ市にある13の分館の中でも、最もユニークで、最も地域に根付いた図書館と紹介されている。

同館は、2017年、ALAの建築賞を受賞した。歴史的建造物とモダン建築を連結したデザイン。水を素早く吸収して外に流す排水システム。明るい光を入れながら熱を逃がす大きな窓。高い建築技術は、2013年にアメリカ建築家協会(AIA)の賞も得ている。

しかし物語はここで終わらない。ラトヤは昨年、ニューオリンズ市長選に立候補。激戦を勝ち抜き、この春、初の黒人女性市長となったのだ。そして6月にニューオリンズで開かれたALAの年次大会開会式で、新市長として登壇した。

「ブロードモアの再建に、図書館はキーだった。図書館は本だけの場所じゃない、それは住民すべてに開かれる平等な場所だった。コミュニティの核だった。図書館があれば、すべての違いを乗り越えていけることが、私たちには分かっていた。」

力強いスピーチに、全米から集まったライブラリアンたちから万雷の拍手が送られたのは言うまでもない。ブロードモアの人口は、ハリケーン前に戻りつつあるという。ローザ F. ケラー図書館は、現在、周辺地域を含め、1.2万人に利用されている。





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